2020/08/15

最近観た映画メモ「1917 命をかけた伝令」他

新しめの作品をまとめて観る特集。真っ先に観ようと思ってたのが先行配信されてた「ミッドサマー」。なぜか配信されなくなってる。Apple TVでは予約中になってるし。

最後の追跡(2016年)
アローン(2016年)
1917 命をかけた伝令(2019年)
ズカルスキーの苦悩(2018年)

●最後の追跡(2016年)

刑務所帰りの兄と、犯罪には無縁の弟。弟は離婚し、最近亡くなった母の農場を引き継いだが、借金の担保になっていて銀行に差し押さえられる期限が近づいている。兄弟はその銀行のいくつもの支店を襲い、借金を返そうとする。定年間近のテキサスレンジャーが彼らを追う。という話。デヴィッド・マッケンジー監督、ジェフ・ブリッジス、クリス・パイン(カーク船長!)、ベン・フォスター。

面白かった! 映画ってこのくらいのシンプルがイイ。ゆったりしてて、登場人物の境遇や思いに浸る余裕があるし、アクションシーンがとびきり激しく感じる。

現代が舞台だけど、ほぼ西部劇。映画に出てくるテキサスは、男たちが虚勢をはらずそのまんま最大級の男として生息する、超男の世界、恐竜の世界なのかも。クルマもでかいし、土地も広い。セコさが微塵もないのが良い。「ザ・テキサスレンジャーズ」とか「ノーカントリー」とか。

あと、最近の映画にはめずらしく黒人がほぼ出てこないかわりに、インディアンというかアメリカ先住民が2人出てくる(混血が進んでるが)。アメリカという国がその上に成り立ってることを理解してる上での白人の自分の立場に対する諦観。あと、兄弟の銀行強盗はある意味「テキサス人として立派なことだし、容認される」という考えが成り立つところが新鮮w 当然ながら人々は銃を持ち歩いてるし反撃するのも自由なわけだがw 自警団の反撃がすさまじい。アメリカだなあ。

アメリカというかテキサスの警察の定年って何歳だ? ジェフ・ブリッジスがジジイすぎて、定年とっくにすぎてるように見える(先日の「人間の証明」で、ジョージ・ケネディの上司がすごいジジイだったので警察の定年が気になってた)。調べたら、定年はないけど、退職を決めてたってことか。で、ジェフ・ブリッジスって意外と若いんだ。撮影時まだ66歳なのね(現在70歳)。じゃあ「トゥルー・グリット」のとき61歳か!

●アローン(2016年)

中東の砂漠。狙撃作戦から撤収する二人は地雷原に迷い込み、相棒は爆死。主人公も同時に地雷を踏んでしまい、足を離したら爆発する状態に陥る。救助は52時間後にしか来ない。その姿勢のまま一人で待つことになる。極限状態で待つ間、彼に起きるいろんな出来事は現実なのか? 幻想なのか?……という話。ファビオ・レジナーロ&ファビオ・グアリョーネ監督、アーミー・ハマー主演。

まったく知らなかったし見るつもりもなかった映画だけど、U-NEXTの映画ランキングの8位のこの映画は何だ?と説明文を読んだら興味を惹かれ、うっかり見始めてしまったw 一人ぼっちで身動き取れなくなり救出を待つ構図やテーマ的にはほとんど「127時間」(2010年)と同じだけど、こちらのほうがよりシンプルで雑味がない。いろんな記憶が引きずり出され、主人公は自分自身と対峙する。冒頭は「アメリカン・スナイパー」だけど、ちょっとユルい。ラストはしゃれてるね。

邦題は安易。孤独についての映画じゃない。実に賑やかだしw 原題は「MINE(地雷)」という究極のストレートだけど、たぶん「私の」とか「(精神の)坑道」とかの意味も含めてんだろう。人生の引き返せなくなるいろんな局面で「カチッ」って地雷を踏んでしまう比喩は、ずっと引きずりそうだw

●1917 命をかけた伝令(2019年)

西部戦線。退却したドイツ軍を追撃するため、イギリス軍の部隊が出発。しかし、退却は罠であることが航空偵察で判明。早く知らせないと1600人が全滅する!その部隊に兄がいる兵が命令を受け、親友と二人で伝令に走る! という話。

サム・メンデス監督、ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、ベネディクト・カンバーバッチ等。ジョージ・マッケイの顔が、当時の素朴な若者の顔そのもので、味わい深い。先日見た「ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド」に出てきそう。

めちゃくちゃ良かった。面白かった。ストーリーはシンプルの極み。敵中突破の恐怖と戦場のリアルが迫ってくる。全編、ワンカット撮影した風の構成。カットが切り替わらないのはずっと目を見開き続けてる感じ。没入するし緊張が延々続く。ワンカットだからほぼリアルタイムなんだけど、気を失ってたりうまいこと端折られたりして約一昼夜を描いてる。緩急が上手い! まさに体験する映画。ゲームの三人称視点のようでもあったり。VRで体験する映画があるとすれば、こういうのだろうな。

ただ、思ったのは、伝令が任務なら脇目も振らずに目的地まで行かなくちゃいけないだろって。塹壕とか民家とかいちいち確認してる間にどんどん先を行けばいいのにと思ったw ドイツ塹壕に残された食料に気を取られたり、不時着した敵パイロットに情けをかけたり、そういう余計なこと(敵であれ、人を信じてるところ)が致命的な失敗になる。にもかかわらず、後半でも同じ失敗するんだよなあw

ところで、第一次大戦時の飛行機がリアル! 非力なエンジンの「動力付き凧」みたいな複葉戦闘機がヒラヒラふわふわ空中戦。これを見たかった!

●ズカルスキーの苦悩(2018年)

70年代、アートコレクターの男が書店に貼られていたポスターをきっかけに、20世紀初頭に活躍したポーランド出身のアーティストが近所に住んでることを知り、訪ねて行って友人になる。講義のような無数のインタビュービデオを元にしたドキュメンタリー。

スタニスラフ・ズカルスキーという彫刻家は認識なかったが、なんと! エルンスト・フックスのある時期(というか最高の時期)の作風ってズカルスキーの影響受けまくりだったんだ! 数年前に亡くなったフックス本人がこのドキュメンタリーに出てる。異様に古典ぽいテンペラの作風だったのが、謎の文明の遺跡のような重量感のある彫刻的な作風になった時期がモロそれ(その後、極彩色のアメコミみたいなタッチに移行)。自分のモチーフをズカルスキー様式で描いた、に近いかも。となると、メビウスも直接間接に影響受けてるかも。

あと、ローブロウアート界隈のなんとなく知ってる人とかに混じって、ジム・ウードリングも出てきて目をキラキラさせてズカルスキーについていっぱいしゃべるw そうだったのか! 僕がウードリングに惹かれるのは当たり前だったんだ。たった1500部しか刷られなかった画集も、見てる人はちゃんと見てるんだなあ。

ズカルスキー、天才だがとんでもなくめちゃくちゃな人物。人体解剖の件は、ぎえええ。信念に基づいてしか動かない、超アーティスト的人物。イヌイット芸術とか民俗的なものを持ってくるところは岡本太郎っぽいかもしれない。

ポーランドに生まれるが、子供の頃にアメリカに移住。アーティスト活動を始めたものの、移民特有と思われる民族的なこだわりもあり、幾度も戻ろうとする。戦前にはナチス同様に世界中で興った民族主義のプロパガンダの一環で、ポーランド政府の庇護を受けて移住。自分の美術館を持つまでになり、人生最良の時を謳歌。同じ頃、ナチスからの依頼も請けたりしてる(ふざけたラフスケッチを送って却下されたらしいw)。

当時のポーランドもやってたユダヤ人排斥にも自発的に加担したことが明らかになると、西海岸的フレンドリーさで「オレたちみんなの先輩」として接していたアーティストたちはドン引きw

結局、時代的に葬られるしかなかったアーティストなんだろう。最近も民族主義の過激思想団体がポーランド時代のズカルスキーを担ぎ出すなどしてるらしい。アメリカ時代の作品も全部持ち込んだ美術館がドイツの爆撃で破壊されたため、代表作がほとんど現存してない。戦後はアメリカに戻り、普通に勤めたりしながら細々とアーティスト活動をするが、相当イカレてた模様。最も力を入れていた「人類の起源はイースター島から」の件は、五島勉「幻の超古代帝国アスカ」みたいだ。WW2の悲劇を踏まえ、人類を一つにするための新しい宗教の創作みたいな感じだったようだが。

すごい良かった。よくこんな良質ドキュメンタリーがNetflixオリジナルとして出てくるなあと思ったら、プロデュースがレオナルド・ディカプリオだって!! ディカプリオはロウブロウアートのコレクターとして有名。本編にも幼少のディカプリオがズカルスキーといっしょに写った写真が出てくる。ズカルスキーに友人として関わったお父さんのジョージ・ディカプリオがインタビューに答えてる。

残念なのは、彫刻を舐めるようなマクロで美しく撮影するのはいいんだけど、全体の形をほとんどちゃんと見れないことくらいか。絵もゆっくり見せてくれない。

YouTubeに作品集あった。キングコングの映画にも関わってるんだけど、キングコングの絵もある。点描のイラストもめちゃ上手いなあ。ひさしぶりに点描やってみたくなった。
https://youtu.be/c4mpf9CUy8Y

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