2023/02/24

最近観た映画メモ「プレイタイム」他


予定ではジャック・タチ2本とピクサー1本。のつもりだったけど、U-NEXTで見れるジャック・タチ作品残りの一本と交換。タチの脚本をアニメーション映画にした「イリュージョニスト」(2010年)もあるけど、また後日。

●プレイタイム(1967年) 2:03 U-NEXT

パリの最新オフィスビルにやってきたジャック・タチ演じるユロ氏。面接担当者とすれ違いまくったり、オフィス家具の見本市に紛れ込んだり、戦友と再会して家に招かれたり、ナイトクラブのしっちゃかめっちゃかに巻き込まれたり。一方、ツアー観光客の若いアメリカ人女性バーバラの行動も並行して描かれる。あるとき二人に接点が……というような話。

「ぼくの伯父さん」のモダニズム部分の拡大版? これにも劇映画的なストーリーがほとんど無く、面白いのかつまらないのかわからないシュールな描写が延々続く。後半には声を上げて笑えるところがいっぱいあるものの、全体すごく面白いかといえば、「う〜ん……」って感じ。画面が広すぎて、見逃してる描写やネタがいっぱいあるんだろうな。もう一度観たい。

・ユロ氏はそれほど前面に出ておらず、観客をその場所へ連れてってくれる案内役みたいなもの。どこにいるかわからず、「ウォーリーを探せ」状態だったりする。

・現代のお金に換算して1093億円と言われる巨額の製作費を得て、モダニズムのビルなど街ごと作り(後で国が買い取ってくれることになってた)、70mmで撮影、3年の月日を費やして完成させたが、一部の支持を得たものの興行的には大失敗。国との約束も反故にされ、ジャック・タチは破産したそう。

・60年代後半としてもやはり驚くほど鮮明な画質。シュールな画面と人々の右往左往、街の風景を見てるだけでも満足感ある。

・音響効果が凝ってる。ステレオの映画ってまだ珍しかった時代のはず。照明も芸が細かいし、ガラスへの写り込みをうまく使ったり、細部すみずみまで神経使ってる完璧主義者ぶりは、キューブリックの画面を思い起こさせるほど。

・ラストの、メリーゴーランドのようなアレ、素晴らしくてニコニコしてしまう。街全体が踊ってるよう。それまでの「う〜ん……」を帳消しw にしてくれて、良い後味が残る。

・日本人ビジネスマンがあちこちうろうろしてるw

●トラフィック(1971年)1:37 U-NEXT

ユロ氏が登場する最後の作品。今まで観たタチ映画全部、タイトルバックや導入部のビジュアルが最上級に素晴らしいのだが、「トラフィック」では工場の映像と文字の色が本当に最高。

パリの自動車メーカー、アルトラ社。新作のキャンピングカーをアムステルダムのモーターショーに出展するため徹夜で慌ただしく準備。朝、設計者のユロ氏も同行して出発。しかし、トラックのパンク、ガス欠、故障、警察に捕まるなど、あらゆるトラブルが降りかかることに……という話。

「すでに始まってる遠方の自動車ショーへキャンピングカーを急いで届ける道中にいろいろトラブル連発」ということで、目的もタイムリミットもあるし、「どうなっちゃうんだ??」というサスペンスまであるという、今までのタチ映画とは違い、ちゃんとストーリーのある劇映画になってる。

面白かった。少なくとも、見てる最中の面白さでは今まで観た4本の中ではベスト。急いでることが忘れられたような中盤以降はちょっとダレるけど、後半のほうが笑えるシーンが多い。いくつも散りばめられた犬ネタに爆笑。従来のタチ的人間図鑑描写も健在なものの、従来のタチ映画スタイルからは一歩後退という意見もあるとのこと。

広報担当に美人が配役されてるのも普通の映画っぽい。役名マリアを演じるマリア・キンバリーはアメリカのトップモデルだったそう。イヤな女で悪役という位置かと思ったらぜんぜんそうではなく、ステキw 場違いなくらいおしゃれさんで微笑ましい。悪くない峰不二子って感じかw 愛犬ピトンかわいい。

英語版のWikipediaによれば、億万長者のギャラリストが「プレイタイム」で破産したタチを支援する代わりに、当時のガールフレンドだったマリアをキャスティングさせたそう(要出典w)。そりゃ、ステキに描写するよなあ。

・マリアが軽やかに乗りこなす黄色いオープンカー、いいな。フィアット850をベースにしたシアタ・スプリング850というクルマだそう。検索したら、ベルモンドの「オー!」(1968年)でジョアンナ・シムカスが乗ってるとのこと。U-NEXTにあったので確認したら、同じ黄色! マリアのはオマージュかもね?

・アムステルダム・モーターショー。IAMS(INTERNATIONAL AMSTERDAM MOTOR SHOW)。たぶん1969年か1970年のを撮ったんだろう。ホンダが出展しててN360のポスターが貼ってある。トヨタや日野も遠くに見える。

・テレビ画面のアポロ11号(12号?)の打ち上げや月着陸をリアルタイムで絡めてるのが面白い。公開当時にはアポロが何日かかって月到着とか観客にはわかっていたので、「道中、どんだけ時間かかってるんだ?」って実感するには良い仕掛け。

バラ色通信「トラフィック」、マリアのおしゃれ解説
http://barairotsushin.com/2022/10/15/9078/

シアタ・スプリング 850
http://nostalgia1970.blog135.fc2.com/blog-entry-17.html

●パラード(1973年)1:29 U-NEXT

テレビ用作品(劇場公開もされた)。現在見れるのは、ビデオ映像やフィルムなどを元に最近になって復元されたものだそう。

サーカス公演の一部始終。淡々とディテールや細かい笑いを見せてくれるのは今までのタチ映画の雰囲気が確かにある。観客の二人の小さな子供からの視点。ただ、すごく面白いわけじゃないけどね。映画ではなく、サーカスとして見るべきかも。

ジャック・タチ演じる団長は一人舞台のパントマイムを何度も見せてくれる。ユロ氏としてのタチより芸をじっくり見れる。この作品で彼はとんでもなく間抜けなヤツではなく、普通のおじさんであることがわかってホッとするw

70年代前半のあの感じが満載。特に若者のファッション。今までの作品が割と時代を超越した感じだったのが、逆に古く見えてしまう。音楽も。

2023/02/18

ソフビ「おへそカイジュウ ネーブルン」発売! Sofvi 'Belly Button Kaiju: Naveloon',

ソフビ「おへそカイジュウ ネーブルン」Belly Button Kaiju: Naveloon、2月18日より artisantoyオンラインショップで発売!

吉井 宏「おへそカイジュウ ネーブルン」商品ページ
https://artisantoy.tokyo/


解説や僕のコメントなど↓のリンクにあります。
Sofvi.tokyo『アーティスト・吉井宏氏が「おへそカイジュウ ネーブルン」でソフビデビュー!』
https://sofvi.tokyo/221015_tokyopixel/












2023/02/15

最近観た映画メモ「ぼくの伯父さん」他


ジャック・タチを観てみた。あと2作観る予定。と、ピクサーも最新作を観るつもりなので、今回と組み合わせが同じになるかも。ジャック・タチ2本とピクサー1本。
(タイトルの後ろの上映時間と配信サービス名、今まで消してからアップしてたけど、消す意味もないのでこれからはつけたままにする)

●ぼくの伯父さんの休暇(1952年) 1:28 U-NEXT

バカンス。みんな汽車で海に向かう。ジャック・タチ演じるユロ氏もオンボロ車でバカンスに出かける。到着した海水浴場の小さなホテルで細かいドジなことやったり騒動を起こすような短いコント(スケッチというらしい)が延々続く。

チャップリンとかのサイレント映画や4コママンガのようなネタをものすごくゆる〜〜くやってるだけで、ストーリーはほぼ無い。ゆるくて退屈かというとそうでもなく、ニコニコしながらあたたかい目で見守る感じ。 (タチは体が大きいため、チャップリンなら軽いドタバタに見えるような動作が、すごいガサツな乱暴者に見えてしまうのだがw)

見終わると、ストーリーが無かった分、リアルな「思い出」みたいに感じるのがおもしろい。

71年前の映画だけど、最近撮られた白黒ビデオ映像のように古さがなく、画面が明るい! フランスのバカンスの原型イメージってこんな感じ? ロケ地って現存してるのかな? 行ってみたい!と思ったら、みなさんそう思われるようで、観光地としてこの映画をネタにしてるらしい。ユロ氏の像もいっぱいある。

第二次大戦から10年もたってない頃って考えるとすごいな。ロケ地は「サン=ナゼール強襲」のSant-Nazerから数kmほどの「サン・マルク・ビーチ」という海水浴場。人々が義務のようにバカンスの習慣をやらされてる感も少々あって変w 僕だったら仕事したくなっちゃいそう。

あまりに明るい風景、カラーで見たかったなあ、、、と思ったら、カラーでも撮影されたけど最終的に白黒が選ばれたそう。あと、壊れたボートのエピソードは「ジョーズ」(1975年)のヒット後に撮影されて1978年版で追加されたそう。むちゃくちゃするなあw

U-NEXTのは英語版だった。とはいえ、会話らしい会話はほとんど無いけど。

●ぼくの伯父さん(1958年) 1:55 U-NEXT

超モダンな住宅に住む夫妻と男の子、妻の兄がジャック・タチ演じるユロ氏。近くのヘンテコなボロアパートに住んでフラフラしてる。モダニズム生活が苦手な男の子は伯父さんのユロ氏を慕ってる。夫妻はユロ氏に仕事につかせたり隣のオールドミスとくっつけようと試みるが、、というような話。

やはりほのぼの系。カラー映像が鮮明で驚く。「〜の休暇」にくらべればストーリーはなくもないけど、やはりサイレント映画のような短いエピソードの羅列。シュールさはアップしてる。

モダニズムを風刺してるようだけど、辛辣ではない。街が新しくなるのもそう悪くないし、新し物好きも愛すべき人間たち、という感じ。対比される古い街の人々もあたたかくてとても良い。子供たちや犬たちもw

会社の秘書や八百屋やホウキのおじさんなどなど、ちょっとしか出てこないけど印象的なキャラクターが満載。アパートの一階の女の子、冒頭と終盤で何歳も違って見える!

・1950年台後半のモダニズム住宅がけっこうカッコいいんだけどね。そのままでは確かに住む気しないくらい冷たいがらんどうだけど、インテリアの工夫によっては。庭もステキw

・ラスト、厄介払いされてるのに本人含めてみんな平和って??

・アカデミー外国語映画賞を取ってる。1958年の時点でこの「劇映画らしくなさ」はハリウッドでは衝撃的だったんだろうな。

・ここ数日間ずっとあのテーマ曲が頭の中に流れ続けてるw

・昔、NHKの少年ドラマシリーズで「ぼくのおじさん」ってのがあった。歌も覚えてる。北杜夫原作。ちょっと前に松田龍平主演で映画もあった。

●私ときどきレッサーパンダ(2022年)1:40 Disney+

ピクサー作品。トロントのチャイナタウンの寺に住む13歳の少女メイは、ある日、感情が昂るとレッサーパンダに変身してしまう体になってしまう。過干渉な母親や仲良し友達、思春期の揺れ動く心などいろいろからめた話。

面白いしめちゃくちゃ良く出来てる。アクションもいいし、「アイドルの歌」があんなに活かされたクライマックスって珍しいかも。娘の成長物語と同時に母親の物語でもあって、それが明らかになるくだりはウルウルした。

レッサーパンダのお腹を黒くしなかったのは「赤」を強調するためだろうけど、動きも質感もよく出来ててかわいい。もしかして、日本のタヌキキャラへのあこがれがある?

中国系のドミー・シー監督の個人的・民族的な想いが詰め込まれてるんだろう。アニメーションの表現は楽しく明るいのに「めちゃ重い」w 明るい表現だから逆に「ズシーン」と来る感じか。「Bao」も背負ってる感があってちょっと重かった。

同人マンガ関連のツイートなどでよく見る、「隠れてコソコソ描いてた恥ずかしい絵が晒される恥ずかしいシチュエーション」って、カナダにもあるのね(描いてる時の表情が最高)w

ピクサーのアニメーション的に、デフォルメされた東洋人の顔って「カールじいさんの空飛ぶ家」のボーイスカウト少年が印象強いけど、ちょっと浮いてる感はあった。ディズニーの「ベイマックス」はちょっと系統が異なるし。今回は主役と一族と他にも大勢の東洋人が出てくるけど、すごい自然なキャラクター感でなじんでて良い。

2023/02/08

最近観た映画メモ「ミラベルと魔法だらけの家」他

新し目の3本。

●NOPE/ノープ(2022年)2:10 U-NEXT

映画用の馬を扱う牧場の兄妹。雲間から現れる空飛ぶ円盤状の何か。それを撮影して一儲けしようと試みるが……という話。ジョーダン・ピール監督、ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマーなど出演。

コメディと解説してるレビューもあるけど、基本的にはホラー。スピルバーグの「宇宙戦争」「未知との遭遇」や「ジョーズ」、マカロニウエスタンとかも入ってる。

登場人物たち、なんかちょっと癇に障る人ばかり。撮り方も笑いどころもちょっとずらしてある感じで奇妙。過去の忌まわしい話が現在と交錯するのはとても良い。っていうか、チンパンジーが強烈すぎて他のパートが霞んでしまうけどw

重要な伏線だろうと思われたものがあっさり扱われてる部分がいくつもあって、肩透かしを食う。これも「ずらしてある/オフビート」的なもの?

時間を贅沢に使ったすごい格調高く見たことないような映像が続くのに、軽い悪ふざけみたいなネタも入れてくる。ラスト近くのAKIRA風のアレもノイズ(ピール監督は実写版「AKIRA」のオファーを断ってる)。

今まで、ジョーダン・ピール監督はいろいろ新しい価値観を提示してて、映画界にかなり影響を与えてるとのこと。「ゲット・アウト」はそのうち観てみる。「NOPE」も細かく見ていくと相当いろんな深いことが仕込まれてるんだろう。

・ある有名な日本製品が出てきて驚く。単にプロデューサーがその製品が大好きなんだそうw

●ブライアン・ウィルソン/約束の旅路(2021年) 1:33 U-NEXT

ほぼ現在のブライアン・ウィルソンのドキュメンタリー。インタビュアーが親友の音楽ライター。リラックスできるようにと、ずっとドライブ中の車内での会話。

ロサンゼルスのなじみの店や思い出の場所をクルマで巡りながら、今までのいろんな話を聞き出す。エルトン・ジョンやブルース・スプリングスティーンなどのアーティストへのインタビュー映像も含む。監督ブレント・ウィルソン(特に親戚とかではないっぽい)。

とてもよかった。いろんなドキュメンタリーや映像とか見たことあるけど、ブライアン、今までで最も明るくていい人な感じ。またかなり太ってるけど、辛そうだったりぼんやりした感じが残ってた頃とは別人のよう。元気に音楽活動を続けてるらしい。

本人の口から当時の話を聞くとブライアンの伝記映画「ラブ&マーシー」の裏付けになってて感動的。ユージン・ランディ医師の洗脳や支配についても、ブライアンは悪い点だけでなく良かった点もちゃんと認識してたりする。

「20年の精神的不調及び引きこもり状態から奇跡的に復活した人の音楽」って意味で、近年のブライアンの音楽はなんとなく「半歩引いて聴く」感じがなくもなかったんだけど、このドキュメンタリーの中で断片的に流れると、本当によくできた美しい音楽なんだなってあらためて思う。ちゃんと聴こうっと。この映画のサントラ盤もある。

●ミラベルと魔法だらけの家(2021年)1:49 Disney+

コロンビア内戦の悲劇を生き抜いた祖母と魔法を授かった一族。ただ一人魔法の才能がない孫のミラベルが、一族の危機を救う、という話。

実はこの映画、8ヶ月ほど前に30分ほど観て中断してた。途中から見始めたらかなり混乱。「ブルーノおじさん」って誰? そもそも一族の人物が多すぎてわからない!

それで最初から見直した。なるほど冒頭の10分で全部説明されてたのか。すっかり忘れてた。ミュージカルシーンの歌に全部折り込まれてる。子供たちの「人が多すぎてわからないよ」に答えて、もう一度おさらいまでやってくれるものの、わかりにくい……。せめて「ブルーノおじさん」がタブーな件をもうちょっと強調しておいてくれないと。

以下、箇条書き

・家族が持ってる魔法の能力、つまり、才能の有無をこんなストレートで残酷な表現で子供に提示していいものだろうか?って心配してしまう。もちろん、「特別な才能がなくてもみんなを幸せにできる」がテーマなものの。

・ミュージカルの宿命。「才能がない」とか嘆きながら踊り歌ってるあなたは、どう見ても歌やダンスの才能あるでしょ、な件w 他、歌と踊りが始まる瞬間のウザ度は実写ミュージカルよりもキツい。

・にぎやかで華やかなシーンのCG画面や動きの密度の濃さが僕のキャパを超えてて、もはや目で追うのが面倒になってくるw 人物の表情や動作、全てが過剰なほど細かく作り込まれてて、「あざとい」と感じてしまうほど。アニメーションの場合、すべて「制作スタッフが時間をかけて精魂込めて表現した結果」なことが伝わってきてしまうから。もう少し突き放した表現のほうが好みかも。。

・後半、これからもう一波乱あるのかと思ったら、プツッとおしまい。残り21分30秒もあるのに! (半分が通常のエンドクレジット、もう半分が各国語版制作のクレジット)。

・ミュージカルが濃密な分、正味のストーリーは多少薄いかも。それぞれのキャラクターの描写だけでも相当楽しめるけどね。

・中尾ミエの吹き替え、上手い!

https://video.unext.jp/mylist/favorite/video?td=SID0075997