2009/10/21

■グラフィック薄氷大魔王[196] 加藤和彦、オール・トゥゲザー・ナウ

■グラフィック薄氷大魔王[196]
加藤和彦、オール・トゥゲザー・ナウ

吉井 宏
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加藤和彦さんが亡くなった。僕は彼の音楽は狭い範囲しか知らないのですが、非常に大きな存在でした。それで書き始めたんだけど、ダメだ、知識がなさすぎる。ちゃんとしたファンの方には申し訳ない。

繊細すぎたんでしょうか。また、「二度と同じことはしない」という厳しさが自分に向いてしまったんでしょうか。あんなに隅々まで神経使ってカッコよく振る舞っていたら疲れるかもしれないですね。あと、鬱病と自殺の関連がこんなに知られてきているのに、あちこちの掲示板やコメントなどで無神経なことを書く人が多いのに驚きました。

加藤和彦。初めて意識したのは、1981年、デザイン学校に入ってすぐ、貸しレコードをカセットテープに録音しまくっていた頃。スネークマン・ショーのアルバム「急いで口で吸え」に入っていた「メケ・メケ」。「おう亀、シンナーに気をつけて壁塗んな!」のギャグに続いてこれ以上ないタイミングで加藤和彦(Dr. ケスラー名義)が歌う「メケ・メケ」につながります。やたら陽気なYMOのバッキングと加藤和彦の明るい歌声。一発で気に入りました。(「メケ・メケ」は美輪明宏の歌とは知ってはいたけど、昨日初めてオリジナルをYouTubeで聞けました。っていうか、加藤和彦作品も追悼アップも含めてたくさん上がってますね。何でも聴ける。YouTubeってスゴイなあ。)

「メケ・メケ」があまりに良かったので、他にないか探したら、ありました! 1979〜1980年のアルバム「パパ・ヘミングウェイ」「うたかたのオペラ」「ベル・エキセントリック」、これを「三部作」といいます。ヨーロッパ三部作ともいうようですが、ラテン音楽の印象が強いのでヨーロッパと言い切るのは抵抗あります。詳しくはGoogle検索していただくとして、ラテンやカリブやヨーロッパのエッセンスが満載の、不思議な音楽でした。

ロックが苦手だった僕に、ロック的ニュアンス抜きのポップミュージックの可能性を見せてくれました。生活臭が漂うフォークも苦手でしたが、氏の音楽は洗練されてて都会的だった。YMOのメンバーやその他大物ミュージシャンを引き連れて、バハマ、マイアミ、ベルリン、パリなどで録音。現地で暮らしながら作ったそうで、ゴージャスな音でした。

聴き直そうと思ってiTunesに入ってる加藤和彦作品を探したら、「メケ・メケ」だけでした。あれ〜?おかしいな。どうやら、1981年にダビングしたカセットテープとLP、90年代前半にMDにダビングしたものでしか聴いたことがなかったようで、CDは買ってないみたいです。iTunesストアでは三部作さえ揃わない(パパ・ヘミングウェイが抜けてる)。

三部作は本当によく繰り返して聴きました。全編傑作揃いなのですが、歌がメインでない3つの曲が特にお気に入りでした。「アンティルの日」はその後カリブ音楽とスティールドラムへ興味をつないでくれることになったし、1920年代風の「ソフィーのプレリュード」のクラリネット風シンセの至高のアンサンブルは僕の中で「歴代美しい曲」堂々ベスト1、「Je Te Veux」はずっと触ってなかったピアノを一時復活するきっかけになりました。たぶん坂本龍一が弾いてたんでしょうけど、当時はエリック・サティの曲とは知らなかったので楽譜があると思わず、耳コピして弾いてました。ほんと、豊かな音楽が詰まってましたよ。金子國義のジャケット画にもハマり、画集を買ったりしました。

三部作の次のLP「あの頃、マリーローランサン」では、歌詞がやけに成金趣味的に感じたことと、YMOが不参加で音が普通っぽかった。それで以降の作品は聴かなくなってしまった。結局、YMO絡みのちょっとヘンタイ音楽的なニュアンスが入ってないと興味がないという、非常にもったいない聴き方をしていたことになる。

っていうか、「帰って来たヨッパライ」はおいといても、ニュースで氏の代表作といわれる曲はほとんど興味なかったんです。今回検索してみて「あ、あれそうだったのか!これもそうか!」みたいに、とんでもなく多数のプロデュース作品があることを知りました。ちゃんと聴いてみよう。

62歳、もっとぜんぜん上だと思っていた。僕のイメージでは、サディスティック・ミカ・バンドでYMOに先駆けて海外で成功した偉大なミュージシャンであり、あこがれのYMOの三人でさえ頭が上がらない、実力がともなった大ボス、という感じ。現在につながる日本のポップミュージックの歴史の系統樹の最もルーツの一人、かな。僕が最もよく聴いていた頃の作品は氏が三十歳代だったわけですが、当時19歳の僕には、とてつもなく「オトナ」に見えました。ああいうカッコイイ、オシャレなオトナになりたいと思いましたもん。

○余談1

ところで、1985年代々木競技場で行われた日本版ライブエイド「オール・トゥゲザー・ナウ」。当時、FMの特番で聴きました。その頃のメジャーなミュージシャンが総出演した大イベントです。はっぴいえんどの再結成もあったし、佐野元春が若手を代表するアーティスト的な扱いだったのもすごい。

中でも、サディスティック・ミカ・バンドの元メンバー(加藤和彦・高橋幸宏・高中正義・後藤次利)と坂本龍一、ボーカルに松任谷由実を加えた「サディスティック・ユーミン・バンド」ってのが極めつけでした。メンバー紹介〜ユーミン「ダウンタウン・ボーイ」と加藤和彦「シンガプーラ」に続いて各メンバーの代表曲メドレー。僕の中では古今東西全てのライブ演奏の中で最もカッコイイものと思ってます。エアチェックしたテープは宝物でMDにもコピーしましたが、YouTubeにもいろいろ出てますね。

小林克也によるメンバー紹介で「ユキーヒローーッ・タカーーハシーッ!」観客「おお〜〜〜〜!!」ってのが人数分続きます。YouTubeの動画ではわかりにくいですが、FMで流れた録音では加藤和彦のときにもっとも歓声が少なく、ありゃ〜?と思ったものでした。当時すでに、キャーキャー言われるアイドル的ミュージシャンの次元ではなかったのですね。直後の加藤和彦のFM番組で、ゲストの高中正義と何か愚痴ってたのを聞いた記憶があります。

○余談2

ヴァン・ダイク・パークスを聴き始めたのはここ10年以内くらいのものですが、最初に聴いたとき、「ああっ!加藤和彦って、ヴァン・ダイク・パークスの歌い方に影響されてたんだ!」と思いました。少なくとも声質がそっくり。Google検索してもそのような記事は見つけられないですけど、世代的・位置的にも影響を受けてる可能性はあると思うんですが、どうなんでしょう? 

【吉井 宏/イラストレーター】  hiroshi@yoshii.com

すみません。今回ほど自分の知識の中途半端さを思い知らされたことはなかったです。勢い込んで書き始めたものの、こんなに思い入れはあるのに、何にも知らないことに気づかされてしまい、書いてて苦しかったです。まあ、中途半端な古い音楽マニアの思い出話ということで勘弁してください〜。次回はPhotoshopとかOSXとか、自分でちゃんと詳しいことについて書こうっと。

●アニメ『ヤンス!ガンス!』放映中。TVK(テレビ神奈川)金曜朝7:25と深夜25:25。

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